高松高等裁判所 昭和24年(上)99号 判決 1951年4月24日
上告人 被告人 四国配電株式会社
弁護人 森川栄
検察官 塩田末平関与
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人森川栄の上告趣意は末尾添付の趣意書の通りである。
上告趣意第一点について、
原審は被告会社の勤労課に厚生係長として勤務する村田孝、厚生係として勤務する増谷新蔵、吉田喜平、前川明等が「住宅被服その他実物給与に関する事項」及「生活物資の斡旋配給に関する事項」等の業務に従事しておりその業務に関して判示の通り和製巻煙草、代用醤油、生甘藷、馬鈴薯、未検査チリメンイリコ及煮干、未検査味噌、布製ゴム底靴、代用味噌等を物価統制令に反する不法価格で買受けた事実を認定し右従業員の違反行為は物価統制令第三十三条第三十四条に該るものとして同令第四十条に基き被告会社に対し罰金刑を科したものであることは判文上明かである。従つて右認定に反し本件は会社員が各自任意に自己の生活のため共同買入をしたものであつて被告会社としての犯罪行為ではない旨の主張は原審の事実認定を非難するものであつて適法な上告理由とはならないから此の点の論旨は採用できない。
上告趣意第二点について、
本件取引は被告会社が営利の目的を以て行つたものでない旨の主張については原判決は前項説明の通り本件取引が行為者である従業員村田孝外三名に於て被告会社の業務に関し自己の業務に属する行為として為されたものである事実を認定したものであり、右論旨を是認しているのであるからこの点の論旨は理由がない。
次に本件違反行為は被告会社の本来の業務の範囲に属するものでないから被告会社を処罰するのは失当であるとの主張について検討すると被告会社が電気の供給等の事業を営む株式会社であることは所論の通り原判決の認定するところである。然しながら物価統制令第四十条に謂う法人の業務とは当該法人の目的である事業そのものに関する業務を指称する許りでなくその事業に関連し若しくはその事業の遂行上に必要な業務をも包含するものと解するのが相当である。原判決挙示の証拠内容を精査すると被告会社徳島支店には勤労課が設けられその課内に厚生係があり厚生係は事務分掌規程により会社従業員の「住宅衣服その他実物給与に関する事項」及「生活物資の斡旋配給に関する事項」等の事務を処理するものと定められ本件取引当時は右支店には八百余名の会社従業員が勤務し十一名の厚生係を置いて右所管事務の処理に当らせていたもので村田孝外前記三名は右厚生係として勤務中その所管事務として判示の通り会社従業員に配給する生活物資を買受けたものであることを確認することができる。即ち右厚生係の管掌する業務は被告会社の目的である配電事業又は之と直接関連する業務とは云い得ないけれどもその事業遂行の為必要なればこそ課、係を常設して之が処理に当らせたものであるから物価統制令第四十条に謂う法人の業務に該るのであつてその業務に従事する者が同条所定の違反行為に出たものである以上被告会社に於て処罰を免がれることはできない。右論旨も理由がない。
仍て刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第四百四十六条により主文の通り判決する。
(裁判長判事 満田清四郎 判事 石丸友二郎 判事 太田元)
弁護人森川栄の上告趣意
第一、原審裁判所は其の事実認定につき被告人四国配電株式会社は松山市に本店を徳島市寺島本町東二丁目二十一番地に徳島支店を設けて電気の供給等の事業を営んで居るものであり、被告人村田孝同増谷新蔵同吉田喜平同前川明は右支店に勤務し被告人村田は勤労課厚生係長被告人増谷、同吉田、同前川は同厚生係として「住宅被服其の他実物給与に関する事項」及び「生活物資の斡旋配給に関する事項」等を分掌する事務に従事して居たものであるが法定の除外事由がないのに被告人会社の前記業務に関し私製巻煙草、代用醤油、生甘藷、馬鈴薯、未検査チリメンイリコ及煮干、未検査味噌、布製ゴム底靴代用味噌等を物価統制令に反して自己及会社雇人の生活必需の為買入れたる事を認定しこれを被告会社の犯罪として被告会社に対し罰金十万円の言渡をなしたり然れども被告会社は原判決に於て敍述する如く電気の供給等の事業を営でいるものにして前記生活必需物資の買入等は会社の業務にあらず会社員が各自任意に自己の生活の為共同買入れし事本件記録上明なる処なれば(共同被告人村田孝、増谷新蔵、吉田喜平、前川明の各供述参照)被告会社としての犯罪行為にあらず前記被告会社の雇人村田等の犯罪行為なり然るにこれを被告会社の犯罪として処罰したるは違法にして原判決を破棄するを相当とす。
第二、仮に被告会社の雇人村田等が前記物資を買入れたる事が村田等の個人としての行為にあらずして被告会社を代表したる被告会社の行為なりとするも其は被告会社の本来の業務の範囲内にあらず且又被告会社が営利の目的を以て買入れたるものにあらず物価統制令第十一条によれば営利の目的に出たるものにあらざる時はこれを犯罪として処罰せざる方針なり又会社の業務の範囲にあらざる行為なれば被告会社を処罰する原判決は不当なり。